支配のためのプラクティス
近代以降の国際社会において「支配」とは、必ずしも暴力的な征服や直接的な支配構造を指すものではなく、むしろ人間同士や国家間の目に見えない関係性の中で作用し続ける概念である。本展「支配のためのプラクティス」では、グローバルな視点を背景に、それぞれ異なる歴史、文化、技術に根差した3名のアーティストによる作品を通じ、支配というテーマを再定義し、その多層的な意味を問いかける試みを展開する。
建築や都市計画のバックグラウンドを持つトモトシは、都市空間を舞台とした映像作品を通じて「行為」と「支配」の曖昧な境界を探求する。本展では、白旗を掲げ街中を歩くだけのパフォーマンスを映像化した作品を出展する。白旗は降伏の象徴でありながら、人々がそれを認識することなく行進する様は、支配がいかに人々の日常や無意識の中に浸透しているかを暗示する。この作品は、現代社会における「見えない支配」を視覚化する試みである。
中国出身で日本を拠点に活動する馬嘉豪は、社会主義や未来主義のプロパガンダ表現を皮肉的に引用しながら、日本社会の構造的な矛盾や未来像を批評する。本展では、日本の若いカップルをモチーフにしたプロパガンダ風のポスター作品を出展。かつてのイデオロギーを想起させつつ、ポップな色彩と構図で再構成されたこれらのイメージは、国境や歴史を越えた視点から、支配の構造がいかに変容し続けるかを物語る。
テクノロジーと人新世をテーマにした作品で国際的に評価されるジアバオ・リーは、人間中心主義や気候変動を問い直す実験的なアプローチを追求する。本展では、海に浮かぶ氷上に「Thank you」と書かれたプラスチック袋を掲げる作品を展示予定。旗として機能するプラスチック袋は、人新世における象徴的な存在であり、領有権や支配を暗示する。同時に、それは環境破壊と消費社会への批判としても解釈される。
本展は、混沌化する国際社会における「支配」のあり方を探る実験的な場である。「旗」という共通の象徴を用いながら、それぞれのアーティストは、政治的・文化的・環境的文脈に根ざした独自のアプローチを展開する。支配は単なる国家間の力関係や政治性の表出ではなく、テクノロジーや資本主義、人間中心主義の視座からも多面的に解釈されるべきものである。本展が提示するのは、支配の構造そのものを批評し、新たな自由の定義を模索する試みである。「支配のためのプラクティス」は、国境や文化、歴史を越えたインターナショナルな視点から、現代における支配と自由の関係性を問い直す契機となるだろう。観る者にとって、この展覧会は単なる批評の場ではなく、私たち自身の生きる世界とその仕組みを再考するための実践の場でもある。当展はGAIEN NISHI ARTWEEKEND 2025に合わせて開催される。
佐藤栄祐 TAV GALLERY